前編である「展示の電気安全対策について はじめに」では、電気の安全について考える第一歩として、ブレーカーと電気容量にまつわる簡単な仕組みと、よくある危険について紹介しました。
後編となるこちらの記事では、小規模会場における展示を想定し、具体的な「こうするといいよ」という事柄を紹介していきます。
こうするといいよ
持ち込み電気器具リストを作成しよう
全体の電気量・電気器具を把握・管理するため、展示の準備段階で、持ち込み電気器具リストを作成しましょう。作成例を以下に示します。
※消費電力は、機器の取扱説明書などを参考に記入しますが、正確な値が不明の場合は、近似する機種から類推し、少し多めに見積もるといった方法を取ります。
この作業での目的は、厳密なスペックを調べることではなく、前述した「15Aが何本必要か」を求めること、およびどのような器具が「電気を食う」のかを感覚として理解することです。
このようなリストを毎回作成していると、次第に「プロジェクターはスマートフォンよりも電気を食う」といった一般論・感覚が身に付くようになるでしょう。
会場のコンセント位置、回路を把握しよう
会場の図面を手に入れ、コンセントの位置を把握しましょう。
貸しギャラリーなどの場合、会場平面図はサイトに掲載されていることが多いです。サイトに掲載がなくとも、オーナーや貸出担当者に「平面図が欲しい」と伝えればデータ等を共有してもらえることも多いので、是非問い合わせてみてください。
図面の無い会場の場合は、下見の際に白紙を持って行き、フリーハンドでも良いので俯瞰図とコンセント位置をメモしましょう。
同時に、分電盤の位置も把握しましょう。
この時、本来であれば「どのコンセント同士が別回路なのか」を同時に確認したいところですが、小規模な会場では図面に書かれていなかったり、会場の担当者も把握していない場合があります。
ここがネックで、どんなに電気容量に気を配ろうと思っても、会場側に資料が無ければ、どのように電源を分散させればよいのか分かりません。
また、ブレーカーからコンセントまでは壁の中を電線が通っているので、見て判断することもできず、結果「ブレーカーが落ちてみないと分からない」という事態が発生します。(回路探索用のテスターもありますが、非常に高価です)
そのような場合は仕方が無いので、「可能な限り分散させて電源を取ること」を心掛けましょう。
施設によっては、コンセントに番号を付けていて、「同じ番号のコンセント同士は同一回路」としている場合もありますが、そこまで管理されていない場合も多いのが現状です。
配線系統図を作成しよう
①持ち込み電気器具リスト
②会場の平面図(コンセント位置等のメモ)
上記2つの資料が揃ったら、それらを基に「配線系統図」を作成します。
ここで見える化したいことは3点です。
- どこのコンセントからどの器具の電源を取るか
- どのようなルートで延長コードを這わせるか
- どれくらいの長さの延長コードが何本必要か/何口の分岐タップが何個必要か
これらが目で見て分かるように、壁のコンセントを起点に「ツリー」を描いて行きます。
作図は手描きでも構いませんし、PCで作成する場合も専門的なソフトは不要で、ExcelやPowerPointの「図形」を使って作図する方法で問題ありません。(印刷がずれないので、PowerPointの方がおすすめです)
ここでは例として、実在するアートスペース(WALLA)の平面図をお借りして、プロジェクターを使用した架空の展示を行う場合の配線系統図を考えてみます。
まずは配線を考える前の段階の、設置レイアウト図から。
※説明のため、一部のコンセント位置など、実際のWALLAとは異なる箇所があります。
図面の上下左右を東西南北と仮定し、
- 北側の壁にはプロジェクターで映像を投影している。
- 西側、東側の壁には絵や写真を展示しており、鑑賞者が近づくことがある。
- 南西の角では、会期中定期的にパフォーマンスや講演会を行っていて、演者を照らすために投光器を設置する。
- 入口には受付があり、外には夜に看板を照らすための灯具も設置している。
- 冬の展示であるため、特に寒い部分はハロゲンヒーターで局所的に暖める。
- スタッフや演者の控室があり、飲み物のためにポットが置いてある。
……という展示イベントであると想定します。
なお、「エアコン」や「天井備え付けの照明」などは別回路になっている前提とし、あくまで持ち込みの電気器具についてのみ考えることとします。
これらの器具について、配線系統図を描いてみた例を示します。
会場内3カ所のコンセントに分散して接続し、鑑賞者導線を妨げず、かつ目的別に同じコンセントから取ることを意識してみました。
- コンセント①:映像投影関係
- コンセント②:パフォーマンス関係
- コンセント③:受付・会場内雑用
- コンセント④:控室関係
このようにすれば、仮に①の映像展示用で不具合が起こっても、②のパフォーマンスに影響を及ぼすリスクを低減できます。
さらに、控室はコンセントが1個しかないため、加熱のために大きく電力を食うポットとヒーターを両方使うと1500Wをオーバーする見込みとなり、どちらかは諦めなければならないことも判明しました。
また、仮に設営中に①②③がすべて同じ回路であると判明したとしましょう。そのような場合も、「④の控室ヒーターを諦め、③の系統を④に移設しよう」といった判断を迅速にできます。
このように、配線系統図を書いてみることで、様々なことが見えてきます。
なお、この例でも示したように、特にプロジェクターを用いた映像展示がある場合、消費電力としては少なくても、投影用PCやスピーカー等も含めて電気器具の「台数」が増えるのが分かると思います。
このような場合、必然的に「タコ足配線」が発生します。
「タコ足配線は避けましょう」とよく言われますが、タコ足自体が悪いのではなく、「無作為なタコ足配線によって、どこにどれだけ電気を使っているか追えなくなること」が問題なのです。
展示・イベントにおいてはある程度のタコ足は必要になりますが、容量と接続先が管理された「見やすいタコ足」を目指しましょう。
コードの保護をしよう
ここからは、実際に配線を行う際のポイントです。
まず、電源コードやケーブル類は「半断線」を防ぐため、直接踏まれないように保護をしましょう。
本数が少なければ、ホームセンター等で販売している「床用配線モール」を使いましょう。茶色や木目調など、床に合う色が販売されているのも嬉しいポイントです。
ただし、モールごと床から浮いてしまい足を引っ掛けては本末転倒ですので、養生テープやリノリウムテープなどと呼ばれる幅広のビニルテープを使って、モールごと床に固定することが望ましいでしょう。
※床へのテープ貼りは、会場のルールで禁止されていないかを確認した上で、床材との相性で糊が残ったり塗装を剥がしてしまったりしないよう、目立たないところで試してから使いましょう。
太いケーブルを這わせたり、野外などの過酷な環境では、プロのイベント業者も使う「ケーブルプロテクター」を使用します。
(参考商品:トモカ電気/ケーブルプロテクター)
また、コードが空中に浮いた状態で配線するのは避けましょう。これも足を引っ掛ける原因になります。特に、機器に付いているプラグを(延長コードを介さずに)直接コンセントに刺すような場合、発生しがちです。
上記のような措置を講じてもなお、転倒や引っかかってしまうリスクが避けられない場合は、立入禁止措置をすることも有効です。
養生テープを使用したコードの固定
床を通るすべての配線に「床用配線モール」を使うのがベストではありますが、壁ぎわに這わせている場合など、明らかに鑑賞者が踏みつけるリスクが少ない場合は、養生テープでの固定も有効です。
コードがズレていかないように、50cmから1m程度の間隔で養生テープを断続的に貼って床に固定しましょう。
ただし、この方法だと養生テープの色によっては見栄えが悪くなりがちです。少し高価ですが、つや消しタイプの養生テープを使うことが望ましいでしょう。
(参考商品:ダイヤテックス/つや消し養生テープ「影武者」)
また、この際、固定を確実にするために、下の写真のようにコード全体にテープを貼り付けたくなるかもしれません。
しかし、このような貼り方をすると、コードに糊が残る、もしくはコードの被覆材料(ポリ塩化ビニル)と化学反応してベタベタになるリスクがあります。
もしコード全体を覆う形でテーピングしたい場合は、中央部に糊の付いていない「仮設コード固定用テープ」の使用をおすすめします。
(参考商品:ダイヤテックス/仮設用コード固定用テープ)
さらに、古い施設では壁コンセント自体が緩くなり、プラグが抜けやすくなっている場合があります。このような場合はコンセント部分にも養生テープを貼り、簡易な抜け止め措置とします。
この時、「L字プラグアダプター」を使うことで、養生テープを貼りやすくなります。
(参考商品:Panasonic/ローリングタップ)
長すぎる延長コードの処理
延長コードを使う場合、本来は適切な長さの(長すぎず短すぎない)コード1本で目的の場所まで延長できるのがベストです。
しかし、やむを得ず長い延長コードを使うこともあるでしょう。
このような場合、わざと大回りで配線する・2m程度の距離を往復させる(「行って来い」)などの処理をして長さを消費する必要があります。
前の記事で「電源ドラム(コードリール)を巻いたまま使わないようにしましょう」と述べましたが、ドラムから引き出したとしても、狭い場所で束ねたりするのも危険です。ドラムではない延長コードでも同様です。
延長コードのつなぎ目の処理
前項とは反対に、若干コードの長さが足りず、「2mの延長コードを2本連結して4mにする」といった状況も少なくありません。
このような場合、つなぎ目がなるべく鑑賞者の通路上に来ないように、つなぐ位置を工夫しましょう。
場合によっては、「2m+2m」で済むところをあえて「2m+3m」にして、つなぎ目の位置をずらすといった工夫も必要になります。
さらに、つないだコード同士が抜けてほしくない場合(1本のコードのように扱いたい場合)は、抜け止めとホコリの侵入防止を兼ねて、ビニルテープを巻くこともあります。
こちらは密着性の観点から、養生テープではなく、ビニルテープを使用します。
なお、野外展示の場合はビニルテープを巻いても、つなぎ目に雨などの水分が侵入してショートに至ることがあります。
防水プラグの付いた野外用延長コードもありますが、そもそも水溜まりのできる位置・水のかかりやすい位置にはつなぎ目を持ってこないことが重要です。
電気器具からの排熱・発火対策をしよう
熱を発する器具は、周囲に十分な距離を確保することが重要です。
たとえば電気ストーブの発熱部分が電源コードと接触していた場合には、当然、コードの被膜が溶けて感電・ショートに発展する可能性があります。
照明器具の場合は、電球から出る熱によって被照射物(照らされる対象物)が過熱されることを避けるため、「被照射物から○○センチ以上離して使うこと」といった注意事項が取扱説明書で示されていることがあります。
使用する照明器具の説明書を読んで(型番が分からない場合は、同じ電球を使用する別器具などを参考にして)適切な距離を取りましょう。
他にも
- 発熱性のある器具のそばに、電源コードはもちろん、紙や布・木屑など可燃性が高いものが来ていないか複数人で確認する
- 観客が熱を発する器具に触れない様に「お手ふれ禁止」マークをつける
- プロジェクター排熱により室温が上がることもあるので、夏は展示室の室温自体を低めに設定する
といった対策が考えられます。
プラグ部分に行き先を示すテープを貼ろう
特に使用する器具が多い場合は、白いビニルテープなどを使って、プラグ部分に電気機器の名前や、そのコードの行き先を示すマーキングをすると、管理しやすくなります。
次回使用時の混乱を防ぐため、撤収時に剥がすのを忘れないようにしましょう。
プラグ、コードを触りながら点検しよう
展示の会期中には当番を決めて、電気周りの異常が無いかを定期的に点検しましょう。受付担当や場内監視など、他の役職と兼務で構いません。
- 異常発熱している箇所は無いか?
- 排熱が悪く熱がこもっている箇所が無いか?
- プラグが抜けかかっている箇所が無いか?
これらの観点から、実際にプラグやコードを触りながら点検することが望ましいでしょう。触ることで、異常な発熱などに素早く気付けるようになります。
退館時、無人になる時は、根元を抜くようにしよう
数日にわたって開催される展示の場合、毎日退館時にコンセントからプラグを抜くようにしましょう。
配線系統図で一番上流になっている部分、すなわち壁のコンセントに接続されている箇所だけで構いません。そうすれば、そこから下流へ通電することは無いからです。
配線時に持っておくと良い便利グッズ
コンセントに付ける電力メーター
持ち込んだ機器がどれくらいの電気を使っているのか実測で知りたい場合は、コンセントに差し込むタイプの電力メーターを使ってみるのも良いでしょう。
(参考商品:ELPA/エコキーパーEC-05EB)
本来は電力(W)ではなく電流(A)の方を計測するべきですが、日本のコンセントは電圧100Vですので、ワット数を100で割ればおおよその電流値を出すことができます。
このようなメーターを、配線系統図の一番上流(つまり、壁のコンセント)に付けておけば、全体の電気容量管理が容易になります。
電気は目に見えないので、むしろ初心者のうちこそ、こうした「視覚化する手段」を積極的に使うべきかもしれません。
漏電ブレーカー
漏電が発生している場合、会場の分電盤に「漏電ブレーカー」が入っていれば、感電事故に至る前にブレーカーが切れてくれます。
ただし、会場全体のメインブレーカーのみが漏電対応ということも多く、その場合は1箇所の漏電で全体が停電となり、会場運営に支障を与えてしまうことがあります。
そこで、特に漏電のリスクが想定される配線(屋外の看板まで引き回すルートなど)は、その根元に仮設用の漏電ブレーカーを設置するのも有効です。
(参考商品:日動工業/ポッキンブレーカ)
色々な長さの延長コード+保管ケース
様々な展示で「電源ドラムを巻いたまま使う問題」が発生しやすい理由は、「電源ドラムの多くが過剰に長いから」と言っても過言ではありません。電源ドラム(コードリール)の多くは最大まで引き出すと20m〜30mの長さになりますが、小規模な会場では長すぎます。
そこで、少し電気の扱いに慣れてきたら、色々な長さの延長コードを数本ずつ持ち、長さ別に管理していくことをおすすめします。
下の写真のように、延長コードを保管するコンテナを作って、長さ別に色の異なるケーブルタイを使って管理する方法がシンプルです。
ここでは、3mの延長コードを橙色、5mの延長コードを緑色として区別しています。
長さは、2~10m程度の中から3種類くらいあれば十分でしょう。三角タップのようなものがあれば、それだけまとめて別管理にするのも便利です。
収納性などの観点から、どうしてもドラム(コードリール)タイプが良い場合は、2m・5m・8m・10mなどの比較的短いコードリールも販売されているので、検討してみてはいかがでしょうか。
いずれにしても、極端に長いコードはどうしても巻いたまま使いたくなるものです。適切な長さの延長コードを持つことも、安全に向けた近道です。
おわりに
2つの記事にわたって、展示において電気を使う際の注意点、および安全に向けての対策をまとめました。
電気は目に見えないため、どこが危険でどこまで安全なのか、把握しづらいのも事実です。しかし、記事中でも触れたように、「電線が熱くなると良くない」「ホコリが入ると良くない」といった単純なリスクに集約されることが多いと言えます。
一度の展示・イベントであらゆる安全対策をすべて実践することは難しい状況もありますが、仲間内に少しでも電気のことを「気にかけられる」人を増やすことが重要ではないでしょうか。
記事制作協力
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なお、プロジェクターなどの記号は舞台仕込み図オープンテンプレートプロジェクト様からお借りしています。ここに収録されている記号のほとんどは舞台の照明・音響・劇場設備用ですが、展示でも使えるものが多いと思います。(非常口や消火器の記号もあります)
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