映像機材や作品自体の動力源としてだけでなく、作品をより魅力的に見せるための照明など、展示にとって大きな要素である電気。
しかし、その取扱い方によっては火災や感電など、重大な被害を招く危険なものでもあります。
家庭でも電気は使用しているのでついつい気軽に考えてしまいがちですが、展示会場という不特定多数が訪れる場所では特別な管理が必要です。
そこで、この記事では、展示にまつわる電気のリスクと安全対策の基本を紹介していきます。
はじめに 電気の仕組み
ブレーカーはなぜ落ちる?
家庭で電気器具を使っていてブレーカーが落ちた経験はあるでしょうか。大抵は、ポットと電子レンジとオーブントースターを同時に使った場合など、 電気を使いすぎた 場合にブレーカーが落ちるようになっています。
なぜブレーカーが落ちるかというと、電気を使いすぎると電線(コード)が熱くなるからです。
もしブレーカーが無い世界ならば、1つのコンセントから大量の電気器具の電源を取っても何も制限されなくなります。しかし、電線(コード)の限界を超えて使用した場合は電線自体が熱を持ち、やがて発煙・発火に至ります。
そうならないように、決められた限界以上に電気を使ったとき(電流を流したとき)に自動的に遮断してくれるのが、ブレーカーです。
つまり、電気を安全に使うためには、まずブレーカーを落とさないように使うこと、言い換えれば、会場内でどこに、どれくらいの電力を消費する機器があるのかを把握すること・管理することが最初の一歩と言えるでしょう。
1単位は1500Wと覚えよう
具体的に、どれくらい電気を使えば「使いすぎ」となり、ブレーカーが落ちるのでしょうか。
一般的には、1個のコンセントの上限は一般的に1500W (15A) になっています。2口や3口タイプのコンセントであっても、合計で15Aが上限になります。
これに合わせて、延長コードも15A~17A程度の許容電流で作られていることがほとんどです。(コードによっては、許容電流12A (1200W) のタイプも存在します。)
したがって、1500W (15A) を1つの単位として考え、「1500Wの電源が○本必要」という観点で考えると、大量の電気器具を使うときに整理しやすくなります。
一方で、ブレーカーが落ちるかどうか、という観点で見ると、ほとんどの会場では1回路あたり2000W (20A) が上限となっています。
ここで言う「回路」とは、「同じブレーカーにつながっているコンセント」を指すと思って差し支えありません。
上図のように、コンセント同士が離れていても、同じブレーカーから伸びてきていれば「同じ回路」であり、合計で2000W (20A) が上限となります。
ただし前述の通りコンセント1つは15Aであるため、
✘…1つのコンセントから20A取るのはNG
✔…10Aと10A、15Aと5A のように分散させて取るのはOK
という基準になります。
また、同じ部屋の中でもコンセントと天井照明は別回路としている場合や、部屋単位で1回路としている場合など、回路の振り分けも施設により様々です。
このことから、たくさんの電気器具を使う際には、1つの回路/1つのコンセントからタップでいくつも分岐をして取るのではなく、不便にならない範囲で可能な限り色々な回路/コンセントに分散させて取ることが必要と言えます。
なお、これらの容量を遵守したとしても、会場全体のメインブレーカー(主幹ブレーカー)の容量を超えることはできません。
なお、増築を繰り返した施設等では、離れた2部屋に1回路がまたがっていることもあり得ます。
この場合、部屋が離れていても、同じ回路では2000W (20A) が上限となります。
その他の危険
前述の「電気の使いすぎ」に起因する事故(過熱による発煙・発火)以外には、以下のような事故があります。これらについても、「だいじょばないポイント」にて解説していきます。
- 感電
- ショートによるスパーク・発火
- 熱を発する器具による火災・やけど
だいじょばないポイント
つなぎすぎに注意しよう
前述の通り、「つなぎすぎ」は電線の発熱を引き起こし、危険です。
通常であれば、ブレーカーが落ちることでつなぎすぎに気付くことができますが、以下のような状況ではブレーカーによる保護が役に立ちません。
- 使っている電気器具は少ないが、延長コード周辺に熱がこもりやすい状況(コードが密集・密接している、箱や布などで覆われている)
- 延長コードの許容電流は超えているが、ブレーカーは落ちないギリギリの状況(1500W~2000Wの間で起こりやすい)
ブレーカーはあくまで電流値しか感知しないので、このような状態だとブレーカーは作動しないのにコードが熱くなり、結果として発煙・火災に至る場合があります。
こういった危険性から、不特定多数の人を入れるイベントでは、「使いすぎればブレーカーが落ちてくれるから大丈夫」ではなく、適切にどこに何をつないでいるか管理する必要があります。
電源ドラムは巻いたまま使わないようにしよう
展示でよく使われる電源ドラムは、「ケーブルを全て伸ばし切った状態で使う」前提で作られています。
巻いたまま使うとケーブルが密集・密接することになり、使っている器具が少なくても発熱・溶解し、火事や事故の発生する可能性が大きく高まってしまいます。
【参考動画:電線溶解実験の様子】
電源ドラムを使う際は必ず、ケーブルを全て伸ばしきって使ってください。
ただし、電源ドラムの種類によっては、「巻いたまま使う際の定格」というものが定められているものもあります。
これらは基本的に本体か取扱説明書、または発売元メーカーの製品情報ページなどに掲載されています。
「どうしても巻いたまま使いたい」という場合には型番等からこれらを確認の上、示されている基準値を必ず守りましょう。
たとえばハタヤ S-30S (30mの一般的なコードリール) では、巻いたままは5A (500W)、伸ばして使うと15A (1500W)と定められています。(参照:ハタヤサンデーリール 商品情報)
延長コードを踏まれないようにしよう
延長コードを鑑賞者が踏まないようにすることも大切です。
鑑賞者が足を引っ掛けて転倒するといった物理的な事故も発生する上に、何度も踏まれ続けるとコードが「半断線(コード内の一部銅線が断線すること)」するおそれがあるからです。
「半断線」した電線は、本来よりも銅線が細くなってしまっており、その部分は通常よりも熱が発生しやすくなっています。
これにより、ブレーカーが落ちるほどの電流を流さなくても、過熱・発火に至る可能性が大きく高まります。
にもかかわらず、外見から察知しづらいため、使い続けてしまうことがあり危険です。このため、そもそもコードを踏まれないような工夫をすることが重要です。
【参考動画:電気火災再現実験・半断線による出火】
また、半断線が進行すると、電線同士が接触してしまい「ショート」に至ることがあります。
ショートとは?
電気回路には必ず、電気を消費するモノ(抵抗)がつながっている必要があります。これを飛び越えて、行きの電線と帰りの電線が直接つながってしまうことをショート(短絡)と言います。
一般のコンセント電源で「ショート」が発生した場合、基本的にはブレーカーが落ちて保護してくれます。
しかしブレーカーが落ちるまでの一瞬の間、極めて大きな電流が流れるため、スパーク・発火を起こしたり、器具を触っていた人に火傷を負わせることがあります。
通常、このような回路を意図的に作ることはありませんが、「半断線」から発展した場合など、意図しない状況でショートを起こしてしまう可能性があります。
プラグ抜けに注意しよう
延長コード等、電気器具は基本的に壁のコンセントに差し込んで使用しますが、展示期間中にそのプラグが抜けかけていることがあります。完全に抜けるまでは電気を使い続けることができるため、気付きにくい危険の1つです。
抜けかけたプラグは電極部分が剥き出しになっているため、上から水滴や金属片が落ちてきた場合に、ショートしてしまうことがあります。
また、見えづらい位置にあるコンセント等で、長期にわたり抜けかけ状態になっていると、ホコリ等によりトラッキング現象に発展する可能性が高く、発火の危険があります。
【参考】トラッキング現象とは? 中部電力(別サイトへ飛びます)
長い間、差しっぱなしになったコンセントと電源プラグの間にはホコリがたまりがち。
そこに湿気が加わると、電源プラグの刃の間で火花放電が繰り返されます。
その熱がコンセントに接する絶縁部を加熱し、電源プラグの刃と刃の間に「トラック」と呼ばれる電気の道をつくります。
やがてはそこから放電をおこし、発火。これがトラッキング現象です。
中部電力サイト「トラッキング現象とは」
感電に注意しよう
コンセントから出ている100V電源に感電した場合、ビリビリとした感覚を起こし、筋肉を動かしにくくなります。
大抵は反射的に手を離すので一時的なもので済みますが、ひどい場合は火傷・壊死・心停止等につながる可能性があります。
電気の流れている電線(銅線部分)に直接触れることで感電します。
通常、電源コードはビニールやゴムで覆われているため触っても感電しませんが、「半断線」の例のように、踏まれ続けて被覆が劣化してしまった場合、銅線が剥き出しになることがあります。
さらに、剥き出しになった電線が金属部分に接触していた場合は、触れている金属全体に電気が発生してしまいます。
試しに、パーティションの足で延長コードが踏みつけられている例を考えてみましょう。
上図のような状況では、パーティションの枠の金属まで電気が回っているため、ここに触っただけで感電してしまう状態です。
このように、電線の被覆を越えて電気が周りの導電性素材に漏れ出してしまうことを「漏電」と言います。
漏電しているだけでは目に見えないので、何も知らずに触れた人が感電することとなり、非常に危険です。
電球・電気器具の熱さに注意しよう
直接電気に関連する事項ではありませんが、電気器具の多くは熱を発しています。電気ストーブ等は明らかに熱源と分かるので触ってしまうことは少ないですが、照明に使われる白熱電球・ハロゲン電球などは、意図せず触ってしまって火傷することがあります。
また、照明器具の場合は、電球から出る熱によって被照射物(照らされる対象物)が過熱されることを避けるため、「被照射物から○○センチ以上離して使うこと」といった注意事項が取扱説明書で示されていることがあります。
他にも、例えば
「電気ストーブの発熱部が電源コードと接触していた結果、コードの被膜が溶ける」
「プロジェクターを狭い場所に設置した結果、排熱がこもって故障に至る」
といった事故も考えられます。
このように、電気を使う以上は、その電気器具から出ている熱に対する意識も必要と言えるでしょう。
前編まとめ
この記事では、電気の安全について考える第一歩として、ブレーカーと電気容量にまつわる簡単な仕組みと、よくある危険についてまとめました。
後編の記事では、小規模会場における展示を想定し、具体的な「こうするといいよ」を紹介していきたいと思います。
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