こんな時にプロジェクションをする
プロジェクターは、壁面やスクリーンなどに大きく映像を投影したい時や、立体物に映像を投影したい時などに使われます。
幅広い表現ができる一方、強い光や発熱性・物質としての重さや機材自体の寿命に関してなど、気を付けるポイントの多い機材でもあります。
この記事では、そんなプロジェクションやプロジェクターに関する基礎知識や注意点、基本の安全対策等を紹介していきます。
まず、基本的な設置方法と、危険性や事故になりやすいポイント(だいじょばないポイント)を挙げていき、その後に対処法を記していきます。
なるべく、機器や設置についての基本的な危険性や特性を理解し、自身でも常にリスクを想像・想定しながら、だいじょうぶな作品制作や展示を心がけてください。
こんな設置方法がある
フロント(床置き)
壁などの投影面に向けて正面(鑑賞者がいる側)から投影する、最もオーソドックスな設置方法です。
メリット:作成データをそのまま投影できる・設営が簡易
デメリット:人がレンズの前を通ると影になってしまう(没入感を得づらい)・(床置きの場合)人が台や機材にぶつかりやすい・展示スペースが狭まってしまう・いたずらや盗難等がされやすい
リア(床置き)
スクリーンなどの半透過な投影面に向けて、裏面(鑑賞者が居ない側)から投影する設置方法です。
メリット:投影面に影が出ない・プロジェクターを意識しづらいため、作品への没入感を高める・いたずらや盗難等されづらい
デメリット:半透過スクリーンなどを用意しなくてはならない・展示スペースを圧迫する・スクリーンの透過度や扱いによっては鑑賞者の目にダメージを与えてしまう可能性がある
天吊り
天井から、専用のマウントなどを用いて、プロジェクターを吊るす形で設置する方法です。
メリット:鑑賞者が投光レンズを覗きこみづらい・機材にぶつかられづらい・プロジェクターを意識しづらいため、作品への没入感が高まる・展示スペースを広く活用できる・いたずらや盗難等が起きづらい
デメリット:設営に手間がかかる・天井の強度やマウント・吊り具の作り方・耐荷重などによって落下リスクがある・機材トラブルが起きた際の対応や交換が大変である
チルト
(専用のマウントなどを用いて)天井から床に向けてなど、角度のついた状態でプロジェクターを設置する方法です。
メリット:床面投影など、特殊な形の投影ができる
デメリット:対応機種以外を使うと機材トラブルや破損の可能性が高い・設営に手間がかかる・(特に天吊りの場合)天井の強度や耐荷重などによっては落下リスクがある・機材トラブルが起きた際の対応が大変である
ポートレート
専用のスタンドなどを用いて、プロジェクターを縦に向けた形で設置する方法です。
メリット:縦長の映像や写真などを大きく投影できる
デメリット:対応機種以外を使うと機材トラブルや破損の可能性が高い・プロジェクター単体では自立しない物が多いのでスタンドが必要・通常設置より投影面が振動や衝撃の影響を受けやすい
箱入れ
特製の展示台や箱などを用いて、プロジェクターをそれらの中へ隠す形で設置する方法です。
メリット:いたずらや盗難等されづらい・プロジェクターを意識しづらいため、作品への没入感を高める
デメリット:熱がこもるため、機材トラブルや破損が起きやすい・耐熱素材の利用や排熱窓を設けるなど、他の設置方法より更に入念な火災・発火リスク対応が必要
だいじょばないポイント
排熱や温湿度に注意しよう
プロジェクターの稼働中は、本体と内部のランプが高温になります。
プロジェクターの排熱口・通風口を塞いでしまったり、不適切な向きで設置すると、熱がうまく排出されず、過熱した本体やランプに触れたひとが火傷したり、発火し火災に発展するリスクが高まります。
また同様に、プロジェクターを可燃素材の近くや壁のすぐそばなど、不適切な環境で稼働させた際にも、発火・火災のリスクは高まります。
排熱や温湿度等が不適切な環境で使うと、人や環境に与えるダメージだけでなく、機材自身にもダメージが蓄積され、機材トラブルの原因となったり、稼働寿命を縮めることにも繋がります。
また、プロジェクターの排熱だけでなく、PCやメディアプレーヤーなど他の機器と隣接させて使用する場合は、両者からの排熱総量や相互の影響にも注意しましょう。
強い光に注意しよう
プロジェクター、特に展示用のプロジェクターは、非常に強い光を発します。
光源を直接覗き込むと、視覚障害の原因となったり、最悪のケースでは失明の可能性もあります。
特に小さな子供やご年配・車椅子の方など、視点の低い(=置き型設置のプロジェクターの光が直接目に入りやすい)方の鑑賞体験設計に関しては、じゅうぶんに検討し、対策を行いましょう。
使用電力に注意しよう
プロジェクター・特に展示用のプロジェクターは、電力を非常に多く必要とします。
必ず使用前に、本体や説明書・メーカーサイトなどを確認し、消費電力や注意事項を確認しておきましょう。
詳しくは以下の記事も参照ください。
→展示の電気安全対策について 前編
→展示の電気安全対策について 後編
不適切な電量で使用した際には、ブレーカーが落ちるだけでなく、ケーブル等からの出火や、プロジェクターをはじめとする機材の損壊、それに伴う火傷や火災・感電などの可能性があります。
光の明滅を伴う表現に注意しよう
強い光の明滅によって目眩や吐き気を催す、「光過敏性発作(光感受性てんかん)」と呼ばれる症状があります。
人によっては、光刺激により、転倒や失神〜意識レベルの低下や呼吸困難などを伴う重篤な症状に陥ることもあります。
1. 1/3秒(フィルムでは8コマ・テレビフレームでは10フレーム)以内で、1回を超える光の点滅は避けるべきである。
2. 急激なカットチェンジや急速に変化する映像も、光の点滅と同様の影響を与えるので、1/3秒に1回を超える使用は避けるべきである。
3. 赤色を単色で使用した点滅やカットチェンジも危険である。ただし、単色の赤色 を除く色の組み合わせでそれが同じ輝度(明るさ)であれば問題はない。
4. 輝度差のある規則的なパターン(縞模様・渦巻き等)は、原則として避けるべきである。
テレビ東京 アニメ番組等の映像効果に関する製作ガイドライン
ひとつの目安として、「1/3秒に1回以上の点滅やカットチェンジは特に危険」とされており、また、赤色を単色として扱う点滅やカットチェンジ、しま模様やうずまきなど、輝度差のあるパターンでも同様の危険性が指摘されています。
機材盗難・鑑賞者による誤操作やいたずらに注意しよう
昨今のプロジェクターは小型・軽量化が進んでいることから、展示時の盗難にも注意が必要です。
特に、プロジェクターを鑑賞者導線上の床や台など、接触可能なところに設置する際は、盗難・誤操作・いたずらへの対策を施しましょう。
リモコンもよく(悪意の有無を問わず)触られてしまったり紛失が起きやすいため、対策が必要です。
雑な取り扱いや操作ミスによる、プロジェクター本体や内部ランプ等の破損に注意しよう。
プロジェクターは繊細な機材です。
特にレンズや内部ランプなどは、少しの衝撃でも破損することがあります。取り扱いには細心の注意を払いましょう。
また、ランプや機材保護のため、投影終了後にもファンが稼働し排熱を続けることがあります。
この状態の時に急いでコンセントなどを抜いてしまうと、熱が内部に残り、機材寿命を縮める原因になります。
さらに、排熱が不十分な状態で人が機材を触った結果、その熱さにより反射的に取り落としてしまう事故などもしばしば発生します。
こちらも同様に注意や対策を行いましょう。
内部ランプの使用時間や寿命に注意しよう。
プロジェクターに使われているランプには寿命が存在します。
ランプの種類 | 平均的な寿命 |
水銀ランプ | 約2,000時間 |
LEDランプ | 約20,000時間 |
レーザーランプ | 約20,000時間 |
ランプの寿命を意識せずに使っていると、
- 画面の色調やバランスが乱れる
- 突如映像が映らなくなる
などのトラブルに見舞われる可能性が高くなります。
液晶焼けに気をつけよう
プロジェクターの機種や構造によっては、液晶焼けが発生します。
写真などの静止画や、(アハ体験のような)長時間ほぼ動きのない動画を長時間投影する展示を行う際には、対策が必要です。
こうするといいよ
プロジェクターの設置要件・設置可能な向き等を確認し遵守しよう
まず、プロジェクター本体や、取扱説明書等に書かれている各種警告や禁止事項、また排熱口・通風口の位置をしっかり確認し、適切な状態で設置しましょう。
設置方法には
・チルト
・ポートレート
などがあり、それそれの機種によって、対応する設置方法やその際の注意点などが説明書や公式サイトに記載されています。必ず確認し、それらの案内に従った設置をしましょう。
プロジェクターから出る熱に配慮しよう
展示の際は予めプロジェクター排熱口・通風口の位置をしっかり確認し、適切に排熱がされる状態で設置しましょう。
プロジェクターの周囲には、布・紙・木材などの可燃物を、絶対に置かないようにしましょう。
火事や火災の原因となり、重大な事件・事故が発生する可能性があります。
また、湿気や油煙のそばや、ほこりの多い場所でもトラブルの可能性が高まります。こういった環境では使用しないようにしましょう。
プロジェクターの排熱は、人的被害だけでなく、周辺機材や他の作品のコンディション・挙動にダメージを与えることもあります。
特に狭い部屋・暗室・機材・作品が密集する展示などでは、展示室の気温(空調)を低めに設定するなどの対策も検討しましょう。
それでも排熱が不十分な場合は、小型のファンを取り付けることも有効な手段です。
機材の合計使用電力を把握・計算し、適切に配線・配置しよう
電力を使用する機材の中でも特にプロジェクターを用いる際には、事前に展示全体の配線系統図を作っておけると良いでしょう。
また、安定した動作と安全のために、可能な限りアースを接続して使用してください。
あわせて、展示会場全体の電量や、コンセント・アースの有無や配置・ブレーカーの配電なども確認しておけるとベストです。
詳しくは以下の記事も参照ください。
→展示の電気安全対策について 前編
→展示の電気安全対策について 後編
強い光や熱による人的被害にも注意しよう
特に子供やご年配の方など、「プロジェクター」というものに馴染みが薄い人の多い展示会では、
必ずプロジェクターの危険性(強い光・熱など)について周知し、さらに導線設計や視線誘導に関して、念入りに検討・確認をしましょう。
この際、入場時や作品前での事前口頭案内・あるいは場内でのピクトグラム掲示など、「母語が異なる人や言葉がわからない人でもその案内に気付けるよう」に注意しましょう。
また、機材はできるだけ、光線が直接目に入りづらい設置方法を検討しましょう。
特に、リアプロジェクション(透過スクリーン等へ、作品の後方から鑑賞者側に向けて投影する場合)では、強い光が直接鑑賞者の目に入らないように注意が必要です。
投影物から光がはみ出さないように処理したり、壁などを立てて完全に空間を区切ることをオススメします。
結界を作ったり、鑑賞者の立ち入りゾーン制限をすることも有効です。
作品の演出上、どうしてもこれらの対策を行えない場合は、監視員を作品そばに常駐させるなど、工夫しましょう。
光刺激や映像内容に関する合意形成や、ゾーニングを行おう
作中、光刺激の強い場面がある場合には、必ずゾーニングを行い、入り口に「この作品は強い光の明滅を伴います」といった注意書きを掲示しましょう。
また、重ねてとなりますが、こういった心身の安全に関する表示は多言語併記やピクトグラムを活用し、非日本語話者にも注意が伝わるようにするといいでしょう。
さらに、こういったリスクを自身で理解したり、とっさに対処することが難しい、幼い子供の鑑賞者などには特に注意が必要です。
場合によっては、鑑賞に年齢制限などを設けた方がいいでしょう。
また、妊娠中の方や、関連する既往症や疾患のある方、ご年配の方にも配慮が必要です。
入場時や受付時にスタッフから注意喚起したり、該当作品のスペースに常に監視員を配置するなど、人的リソースを活用することもいいでしょう。
繰り返しとなりますが、
作中にこういった光刺激の強い場面や、エログロ描写・虐待や性的暴行などのフラッシュバックを起こす可能性がある内容など、刺激の強い場面がある場合には、かならず事前にその旨を告知し、鑑賞者自身が自分の体質・特性・体調や状況を鑑みて、自ら鑑賞するかどうかを選択できるよう、配慮しましょう。
機材には盗難防止ワイヤーをかけよう/展示台や箱に入れよう
盗難防止には、プロジェクターや再生機材にワイヤーをかけたり、それらを展示台や箱の中に納めるようにしましょう。
例えばプロジェクターを直接見える形で置くのではなく、展示台や什器の中や下に隠したり、
プロジェクターと展示台をワイヤーでつないでおくなど、盗難や誤操作・いたずらをされづらいように設置しましょう。
※この際先に述べたように、必ず排熱や可燃性のリスク等について十分対策・テスト・確認を行ってください。
耐火素材で作成する・排熱用の窓を設ける・ワイヤーメッシュやメタルラック等を用いるなどして、通気性を確保しながら工夫することにより、発火等によるリスクと盗難のリスクを、同時に可能な限り下げられるとよいでしょう。
また、ペット用の見守りカメラなどを設置し、「監視中」といったステッカー等を貼っておくだけでも効果があります。
加えて、リモコンは作品の再生・設定等においてとても便利なものですが、鑑賞者が触ってしまいやすいものでもあります。
受付やバックヤード・展示台の中など、鑑賞者の手の届かないところで保管しましょう。
※あわせて余談ですが、プロジェクターのリモコンは設営・搬入出時に紛失しやすいわりに替えのききづらいものです。
- 置き場所やしまい場所を決めておく
- 養生テープなどで本体にまとめておく
など、紛失にもじゅうぶん注意しておきましょう。
→盗難防止記事(作成中)を参照
破損を防ぐために丁寧に扱おう
プロジェクターはとても壊れやすい機材です。特に
- レンズやレンズマウント
- HDMIポート
- 内部ランプ
等は衝撃により物理破損しやすく、
- その他内部機構
は、排熱不良による影響などで短命化しやすいです。
これらのトラブルを防ぐためには、以下のような対策が有効です。
- 設置作業中はレンズキャップをつけたまま行う。→レンズに傷が入らないように。また、手の油脂やホコリやゴミによる汚れを防ぐ効果も。
- ファンが止まる前に電源を落とさない。→特にランプ式は熱の影響でランプが割れることがある。ランプ交換はできるが手間。また、熱い機体を触ったことにより取り落としなど、人的な事故の原因にもなる。
- 間隔を開けずに再起動を繰り返すなど、無理な操作をしない。→特にランプ式は「10分間は再起動しない」などの注意書きがあることも。
- プロジェクターと天吊マウント・スタンド等を固定する際、インパクトドライバー等の電動工具を使わない。→締めすぎや力のかかりすぎ等により、マウントやプロジェクターの受け具部分、またはプロジェクター本体にダメージや破損の可能性あり。少し面倒でも手作業で固定する方が確実。
- フィルターはまめに掃除する。→フィルターがホコリや汚れで詰まっていると、排熱効率等が下がり機能や描画に影響することも。まめに掃除するか、予備を用意して取り替えると◎。
- 気温や湿度など、適切な環境で保存・保管する。
- レンズマウントが折れないように、丁寧に扱う。また、梱包や輸送時も重点的に保護・固定する。
- HDMIポートに負荷がかかりづらいよう、L字プラグのケーブルを用いる。
ランプタイマーを活用し、ランプの寿命を守って使用しよう
最近のプロジェクターにはランプタイム機能(ランプの交換目安時間を教えてくれる機能)があるものも多いです。
誤ってリセットすると、ランプの正確な使用時間が分からなくなってしまうため、気をつけましょう。
また、ランプの寿命が近い機材は無理に使わず、早めに早めに交換するようにしましょう。
あわせて、ランプは必ず機材説明等に記載のある「正規の対応ランプ」を使用しましょう。
展示前にランプを交換することがどうしても難しい場合には、
- 純正ランプを早めに取り寄せておき
- 交換作業をする可能性を鑑みながら展示を組む(※天吊りの場合はいざという時にタワーが通せるような作品配置にする、など)
といった対策を行えるといいでしょう。
表現したい内容に適切な機種(DLPなど)を選ぼう
長時間の静止画・それに準じる映像展示などによる液晶焼けを防止するには、DLP方式のプロジェクターを利用しましょう。
機材の変更等がどうしても難しい場合には、数時間に一度液晶焼け防止の画像や動画を流したり、オペレーション的に可能なら観客不在時を見はからって画面を切り替える、など、展示内容や運用体制を鑑みて工夫を行うとよいでしょう。
まとめ
熱・強い光・電気や使用電力・機材自体の重さや壊れやすさ・投影や設置方法の適性・盗難リスクなど、プロジェクターを安心安全に扱うためには、非常に多くの配慮すべきポイントがあります。
説明書や仕様書・メーカーサイトとこの記事をあわせて参照し、自分だけでなく周囲と確認をしあいながら、安全でだいじょうぶな展示を心がけて行ってもらえれば、と思います。